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こんにちは! FPコンパス伊藤です。
前回のブログでは、「がん治療」には標準治療以外に「未承認薬」や「先進医療」といった選択肢があること、そして保険適用外の治療がどれほど高額になり得るかをお伝えしました。
今回は、特に「最先端の治療」という響きで多くの人が関心を持つ**「先進医療」**について、その実態と、私たちの医療費とどう関係するのかを分かりやすく解説していきます。
「先進医療」ってどんな治療?
「先進医療」とは、まだ公的医療保険の対象にはなっていないけれども、将来的に保険適用を目指している、国が認めた先進的な医療技術のことです。
「保険がきかないの?」と不安に思われるかもしれませんが、これは「保険診療」と「保険外診療(自由診療)」を組み合わせて受けることが特別に認められている**「保険外併用療養費制度」**の一部なんです。
- **「治療効果が高い」「体に優しい」「回復が早い」**など、これまでの治療にはないメリットを持つ新しい技術が多くあります。
- 2025年6月1日現在で77種類もの技術が登録されており、日々研究が進められています。
- ただし、これは一種の「臨床研究」として位置づけられているため、すべての病院で受けられるわけではなく、国から承認された特定の医療機関でしか実施できません。
- 受けるには、患者さん自身の希望と、専門医による病状への適合が認められる必要があります。
具体的な治療例と、その費用感
先進医療には多岐にわたる技術がありますが、特に注目されやすいものをいくつかご紹介しましょう。
- 受診者数が多い先進医療
- 意外かもしれませんが、不妊治療に関連する技術が多く、例えば「タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養」は年間約8.9万人が受診し、技術料の平均は約4万円です。
- 費用が高額になる先進医療
- 高額な治療費となるのは、主に「がん治療」に関連する技術です。
- 「周術期デュルバルマブ静脈内投与療法」は、平均で約957万円。
- 「重粒子線治療」は、平均で約314万円(年間約440人受診)。
- 「陽子線治療」は、平均で約268万円(年間約830人受診)。
- このように、先進医療の費用は技術によって大きく異なりますが、数百万円単位になるものも少なくありません。
- 高額な治療費となるのは、主に「がん治療」に関連する技術です。
【山形県内の先進医療実施医療機関について】
地元山形県内にも、先進医療を実施している医療機関があります。 特に山形大学医学部附属病院では、以下のような代表的な先進医療を実施しています。
- 重粒子線治療(がん治療の一種で、高精度な放射線治療)
- ハイパードライヒト乾燥羊膜を用いた外科的再建術(再発した目の翼状片などの治療)
- タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養(不妊治療の一環として行われる高度な技術)
詳しい情報や具体的な診療内容については、各医療機関に直接お問い合わせください。
「先進医療」の費用負担、知っておくべきポイント
ここが最も重要です。先進医療を受けた場合の費用負担の仕組みは、少し複雑です。
- 技術料は全額自己負担!
- 先進医療の「技術料」にあたる部分は、公的医療保険の対象外なので、かかった費用は全額(100%)自己負担となります。
- 先ほどの数百万円といった高額な費用が、そのまま自己負担になるわけです。
- 通常の診察・検査などは保険適用
- 一方で、先進医療と並行して行われる通常の診察料、検査料、薬代、入院料などは、公的医療保険が適用されます。これらは通常の保険診療と同様に、3割(年齢によっては1~2割)負担で済みます。
- 高額療養費制度は適用外!
- 通常の治療部分の自己負担には高額療養費制度が適用されますが、先進医療の技術料(全額自己負担の部分)は、この制度の対象外となるので注意が必要です。
例で見てみましょう もし総医療費100万円で、そのうち先進医療の技術料が20万円だった場合:
- 先進医療技術料20万円はあなたが全額支払います。
- 残りの80万円(保険診療部分)の3割にあたる24万円が、通常の自己負担です。
- 結果として、あなたの支払う総額は、20万円 + 24万円 = 44万円となります。
「先進医療特約」が、あなたの大きな味方に!
高額な先進医療の技術料を全額自己負担するのは、やはり不安ですよね。 そこで重要になるのが、民間の医療保険やがん保険に付帯できる**「先進医療特約」**です。
この特約をつけていれば、たとえ数百万円かかる先進医療の技術料であっても、保険会社が全額カバーしてくれることがほとんどです。月数百円程度の保険料で、いざという時の数百万の出費に備えられる、非常に費用対効果の高い特約と言えるでしょう。
【知っておきたい!特約の更新と注意点】
ただし、先進医療特約は、5年更新がほとんどです。なぜなら、2年に1度行われる「診療報酬改定」の際に、公的医療保険制度への導入や、先進医療からの削除が検討されるなど、常に内容の見直しがされているためです。終身医療保険の主契約が終身でも、先進医療特約だけは5年ごとに見直しがあることを覚えておきましょう。
また、先進医療は受けられる医療機関が限られ、治療内容も限定的です。そのため、「先進医療があるから、がんになってもお金はかからない」と安易に考えるのは要注意です。誰もが簡単に受けられるわけではないという点をしっかり押さえておきましょう。
公的医療保険だけでは賄えない最先端の治療を、経済的な心配なく選択できる。これが、先進医療特約が老後の医療費不安に大きく貢献する理由です。
次回は、病気になった際の入院や手術に焦点を当てて、具体的な費用と備えについてお話しします。 お楽しみに!

FPコンパスファイナンシャルプランナー
1981年2月生(うお座)/神奈川県出身/東京造形大学デザイン科卒
1男1女の父/趣味:ランニング(月200km)登山、料理、筋トレ、社会人サッカー所属
印刷会社でデザイナーとして11年勤務。その後ソニー生命で5年、生命保険を取扱う。
2018年妻の病(がん)をきっかけに山形へ。経済的・精神的不安定な時に、頼れるのは国の社会保障と自分の蓄え、そして人のつながりだと痛感。この経験を活かし、困ったときに頼れる、困らない「しくみ」と「保障」を提供し続けます。
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