令和7年7月23日の朝のニュースで、電車内でモバイルバッテリーを使用していた女性のモバイルバッテリーが発火し、電車が一時停止する事態が発生しました。幸い大きな被害は報じられていませんが、一歩間違えれば大惨事になりかねない、身近な製品に潜む危険性が改めて浮き彫りになりました。
モバイルバッテリーは私たちの生活に欠かせないものとなっていますが、その便利さの裏には火災という大きな危険が潜んでいます。今回は、モバイルバッテリー火災の現状と、私たちにできる対策、そして万が一の火災に備える保険について、詳しく見ていきましょう。
モバイルバッテリー火災、増加の一途を辿る?その実態とデータ
近年、モバイルバッテリーによる発火事故が急増しています。
NITE(製品評価技術基盤機)によると、2024年までの5年間にNITEに報告のあった「リチウム電池搭載製品」の事故は1860件あり、年々増加傾向にあるほか、事故の8割以上(1587件)が火災事故に至っています。
なぜモバイルバッテリーは発火するのか?
モバイルバッテリーの発火原因は様々ですが、主に以下の点が挙げられます。
- 過充電・過放電: 充電しすぎたり、完全に放電しきったりすると、バッテリーに負荷がかかり、劣化を早めます。
- 高温環境下での使用・保管: 特に夏場、車内や直射日光の当たる場所に放置すると、モバイルバッテリーの内部温度が上昇し、発火のリスクが高まります。
- 衝撃・圧力: 落下させたり、強い圧力をかけたりすると、内部のバッテリーセルが損傷し、ショートして発火する可能性があります。
- 粗悪品・劣化品の使用: 安価なノーブランド品や、長期間使用して劣化が進んだバッテリーは、安全性が低く、発火のリスクが高まります。
- 充電中の使用: 充電しながらモバイルバッテリーを使用すると、熱が発生しやすくなり、発火のリスクが高まります。
安全なモバイルバッテリーを選ぶには?PSEマーク
モバイルバッテリーを安全に使うためには、適切な製品を選ぶことが重要です。日本では、電気用品安全法(PSE法)に基づき、電気用品にPSEマークの表示が義務付けられています。モバイルバッテリーもこの対象であり、PSEマークが表示されている製品は、国の定める技術基準に適合していることを示しています。
PSEマークは、製品本体またはパッケージに表示されています。購入時には、必ずPSEマークがあることを確認しましょう。
発火の恐れがあるリコール対象製品の確認方法
万が一、ご使用中のモバイルバッテリーがリコール対象となっていないか確認することは非常に重要です。
消費者庁が公開している「消費者庁リコール情報サイト」では、モバイルバッテリーを含む様々な製品のリコール情報が一覧で確認できます。このサイトでは、製品カテゴリー別や新規登録順で検索できるほか、サムネイル画像付きで対象製品が表示されるため、型番を把握していない場合でも視覚的に確認しやすくなっています。
夏場の車内は要注意!モバイルバッテリーと車の火災
特に夏場、車内の温度は想像以上に上昇します。直射日光が当たる場所にモバイルバッテリーを放置すると、高温になり、発火につながる危険性が非常に高まります。
もし車内でモバイルバッテリーが原因で火災が発生した場合、車両保険で補償されるかが気になる点かと思います。ご加入の車両保険の種類にかかわらず、火災による損害は基本的に車両保険の補償対象となります。したがって、車両保険に加入していれば、モバイルバッテリーによる車の火災も補償されると考えてよいでしょう。
また、車内に置いていたモバイルバッテリー以外の携行品が火災で損害を受けた場合、車両保険の「携行品特約」が付帯していれば、その損害も補償される可能性があります。
自宅での危険:充電しっぱなしと充電中の使用
自宅でのモバイルバッテリーの使用も、注意が必要です。
- 充電しっぱなし(過充電): 寝ている間や外出中に充電器に繋ぎっぱなしにするのは避けましょう。過充電はバッテリーの劣化を早め、発火のリスクを高めます。充電が完了したら、速やかにコンセントから抜く習慣をつけましょう。
- 充電しながらの使用: スマートフォンなどを充電しながらモバイルバッテリーを使用することも、発熱の原因となり危険です。充電中は使用を避け、涼しい場所で充電するように心がけてください。
万が一の火災に備える:賠償と保険の知識
モバイルバッテリーの火災は、他人を巻き込む可能性もあります。万が一火災が発生した場合、その過失はどこまで問われるのでしょうか。
賃貸住宅の場合
賃貸住宅でモバイルバッテリーが原因で火災が発生した場合、原因不明の場合でも、多くの場合、賃貸契約者と賃貸オーナーの双方に賠償責任が発生する可能性があります。
- 賃貸契約者(借主): 借主には、善管注意義務(善良な管理者の注意義務)があります。モバイルバッテリーの不適切な使用が原因で火災が発生した場合、この義務を怠ったとして損害賠償責任を負う可能性があります。
- 備え:借家賠償責任保険家財保険や火災保険に付帯する「借家賠償責任保険」は、借主が賃貸物件に損害を与えてしまった場合に備えるものです。しかし、少額短期保険では満額の補償が下りないケースや、消防や警察の見聞が必要となる場合もあります。
- 賃貸オーナー(大家): オーナーは自身の火災保険で損害をカバーすることになりますが、借主からの賠償金が差し引かれる形で保険金が支払われることになります。
事例に見る賠償の難しさ:
1Rの賃貸物件でモバイルバッテリーが原因で1部屋全焼、さらに隣の部屋や共用施設にも影響が出た事例では、修繕費用が1200万円に上ったケースがありました。借主の借家賠償保険から400万円、オーナーの火災保険から500万円が支払われましたが、保険会社査定では900万円が妥当と判断されました。結果として残りの300万円は修繕メーカーが値引き対応する形で決着しましたが、自己解決まで1年半もの調査期間を要し、非常に長期化するケースもあります。
このように、賃貸住宅での火災は、金銭的な負担だけでなく、精神的、時間的な負担も非常に大きくなることを認識しておく必要があります。
自宅(持ち家)の場合
自宅でモバイルバッテリーが原因で火災が発生した場合、自身の火災保険が適用されます。火災保険は、火災による建物の損害だけでなく、消火活動による水濡れ被害も補償の対象となります。
家財保険の重要性:
火災が発生すると、家財は燃えてしまうだけでなく、消火活動で水浸しになり、ほぼ全滅すると言っても過言ではありません。家財の総額は、想像以上に高額になることがあります。
保険会社によっては、世帯構成や年代に応じた家財の目安額を提示しています。
家財の目安金額例(家族4人、40代、専有面積100㎡の一般的な家庭の場合):
- 一人あたりの家財目安: ざっくり300万円(年齢によって変動あり)
- 家族4人での家財合計目安: 1200万円~2000万円程度
具体的な家財の例を挙げると、以下のようになります。
家電カテゴリ:
- 冷蔵庫:約20万円
- 洗濯機:約15万円
- テレビ:約20万円 × 3台 = 60万円
- パソコン:約15万円 × 2台 = 30万円
- エアコン:約20万円 × 3台 = 60万円 (設置費用含む)
- ゲーム機:約7万円 × 2台 = 14万円
- 掃除機:約7万円
- 炊飯器:約5万円
- 電子レンジ:約6万円
- 電気ポット:約2万円
- 扇風機:約1.5万円 × 3台 = 4.5万円
- ストーブ:約3万円 × 3台 = 9万円
- 除湿乾燥機:約7万円
- 家電カテゴリ合計:約300.5万円
収納家具カテゴリ:
- タンス:約10万円 × 3台 = 30万円
- 衣装ケース:約2,000円 × 8台 = 1.6万円
- テーブル:約8万円
- 椅子:約1.5万円 × 4脚 = 6万円
- 学習机:約7万円 × 3台 = 21万円
- 学習椅子:約1.5万円 × 3台 = 4.5万円
- 本棚:約3万円 × 4台 = 12万円
- 衣装棚:約4万円 × 4台 = 16万円
- 収納ケース:約1万円
- 収納家具カテゴリ合計:約99.1万円
寝具カテゴリ:
- 布団:約4万円 × 4組 = 16万円
- 毛布:約8,000円 × 4枚 = 3.2万円
- その他寝具(枕、カバーなど):約1.5万円 × 4人分 = 6万円
- ベッド:約12万円 × 2台 = 24万円
- 電気毛布:約8,000円 × 2枚 = 1.6万円
- 寝具カテゴリ合計:約50.8万円
衣服カテゴリ:
- 夏服:約8万円 × 4人分 = 32万円
- 冬服:約15万円 × 4人分 = 60万円
- 下着類:約2万円 × 4人分 = 8万円
- 衣服カテゴリ合計:約100万円
趣味カテゴリ:
- 趣味道具一式:約15万円 × 2人分 = 30万円
- 趣味カテゴリ合計:約30万円
全ての家財の合計金額
約300.5万円 (家電) + 約99.1万円 (収納家具) + 約50.8万円 (寝具) + 約100万円 (衣服) + 約30万円 (趣味) = 約580.4万円
今回の増額版では、家財の合計が約 580万円 となりました。
これらはあくまで一例ですが、合計すると数百万円、場合によっては千万円を超えることも珍しくありません。火災保険の家財補償が十分な金額になっているか、改めて確認することをおすすめします。
モバイルバッテリーの安全な使用のための注意喚起
今回の事故を教訓に、私たちはモバイルバッテリーを安全に利用するための意識を高める必要があります。
- PSEマークのある製品を選ぶ: 国の安全基準を満たした製品を選びましょう。
- 高温になる場所での使用・保管を避ける: 特に夏場の車内や直射日光の当たる場所には放置しないようにしましょう。
- 過充電・過放電を避ける: 充電が終わったら速やかにコンセントから抜き、完全に放電しきらないうちに充電するようにしましょう。
- 衝撃や圧力を加えない: 落下させたり、カバンの中で押しつぶしたりしないよう注意しましょう。
- 劣化を感じたら使用を中止する: バッテリーが膨らんできた、異音がする、異常に熱くなるなどの症状が見られたら、すぐに使用を中止し、適切な方法で処分しましょう。
- 充電しながらの使用は避ける: 充電中は発熱しやすいため、使用を控えましょう。
モバイルバッテリーは便利な反面、使い方を誤ると大きな危険をはらんでいます。日頃から安全な使用を心がけ、万が一に備えて適切な保険に加入しておくことが、私たち自身と大切な家族を守るために重要です。
参考資料
- NITE (独立行政法人製品評価技術基盤機構) モバイルバッテリーを含むリチウムイオン電池内蔵製品の事故件数に関するデータは、NITEが公開している資料に基づいています。
- PSEマークと確認方法: モバイルバッテリーのPSEマークに関する情報は、以下のサイトを参考にしました。
- リコール情報確認サイト:
家財の金額設定は、ご自身のライフスタイルや所有物によって大きく異なります。この金額例はあくまで参考として、ご自身の家財について一度リストアップし、実際の価値を把握してみることをお勧めします。
自動車保険や火災保険、家財保険の加入や見直しについて、何かご不明な点がありましたら、お気軽にご相談ください。

FPコンパスファイナンシャルプランナー
1981年2月生(うお座)/神奈川県出身/東京造形大学デザイン科卒
1男1女の父/趣味:ランニング(月200km)登山、料理、筋トレ、社会人サッカー所属
印刷会社でデザイナーとして11年勤務。その後ソニー生命で5年、生命保険を取扱う。
2018年妻の病(がん)をきっかけに山形へ。経済的・精神的不安定な時に、頼れるのは国の社会保障と自分の蓄え、そして人のつながりだと痛感。この経験を活かし、困ったときに頼れる、困らない「しくみ」と「保障」を提供し続けます。
コメント